20歳で浮世絵師としてデビューしてから90歳で没するまでの70年間、常に挑戦を続けて森羅万象を描き抜こうとした画狂の絵師・葛飾北斎。
その生誕260年を記念し、代表作である『北斎漫画』、「冨嶽三十六景」、『富嶽百景』の全頁(ページ)・全点・全図が一堂に会する前代未聞の特別展が2021年7月、東京・六本木に出現します。(公式サイトより)
『北斎漫画(初編~15編)』全883頁、「冨嶽三十六景」全46点、『富嶽百景(初編~3編)』全102図を通期で展示。生きているうちにこんな機会は二度とないかもしれないと思いチケットを取りました。このあと色々書きますが、行けて良かったというのが私の感想です。
北斎ランド
会場内は「北斎漫画」「冨嶽三十六景」「富嶽百景」のエリア、そしてデジタル展示のエリアがあります。それぞれが個で存在している感じで非常にわかりやすい構成でした。
写真左は「北斎漫画」が展示されているエリアです。大きなひとつの部屋にところせましと作品があります。これほどの数の本を開いた状態で展示できるのは凄まじいとしか言いようがないです。壁も床も北斎。まさに北斎づくしな空間でした。
このエリアに関しては観客がどれくらいいるかにもよる気はしますが、少なくとも落ち着く空間ではないなと思いました。この中で静かに落ち着いて作品を鑑賞するのはよほど周りを気にしない人でないと無理だなぁと思います。美術館の展示室というよりは北斎ランドという名のエンタメ施設みたいだな~と私は感じました。
私は葛飾北斎のことをほとんど何も知りません。名前と有名な富士山の作品、それくらいの知識しかありませんでした。なので、ここで展示されていたたくさんの絵には驚きました。景色はもちろん、生き物(哺乳類、鳥類、爬虫類、昆虫、妖怪、神獣その他いろいろ)の絵も多い。そして人間を描いた絵も本当に多い。数にも驚きますが描写の細かさにも驚きました。細部の書き込みが凄いんです。
この「北斎漫画」というのは私まったく知らなかったのですが、北斎が森羅万象を描いた全15編の絵手本なのだそうです。お弟子さんや職人さんが参考にするためのイラスト集のような感じだそうで、当時大ベストセラーになり1編で終わるはずだったのが15編も刊行されることになったのだとか。今でいう超売れっ子絵師、みたいな感じでしょうか。
北斎は物語に挿絵をつける仕事もしていたそうです。そんな作品も展示されていたのですが、こちらも細かさと勢いと圧が凄くて、何かみなぎる生命力のようなものを作品から感じました。それにしても作品の数が凄い。物量で殴りかかってくる感じがしました。
撮影禁止だったので写真はありませんが、私が一番好きなのは「冨嶽三十六景」のエリアでした。ここはそれまでの北斎漫画エリアと違いシュッとした締まりのある空間、という印象を受けました。全部で46点の冨嶽三十六景が円形の部屋にずらりと並んで展示されているあの空間はとても私好みでした。マジマジと作品を堪能することができて嬉しかったです。
ベタすぎるかもしれませんが「神奈川沖浪裏」が好きです。この作品を前にすると特別な力が宿ったかのような気持ちになります。日本を表す作品といっても過言ではないくらい世界中で有名なこの作品、安っぽい言葉になってしまいますがオーラが違う気がします。
北斎を浴びて
会場を後にした時、あ~北斎を浴びたな~、と思いました。そんな展覧会でした。
今まで少ししか知らなった北斎ですが、こんなにありとあらゆるものを描いていたんだなという驚きがあって、それを知ることができたのは良かったと思います。90歳まで生きた北斎、人生のほとんどの時間を描くことに費やしてきたのかなぁと思いを馳せることもできました。
この展覧会は物量と展示空間で勝負しているようなところがあると思うのですが、その分(?)ひとつひとつの作品についての解説は少なめです。正直に言えば作品についても北斎の人物像についても、もっと深く知りたかったなと私は思いました。でも、それは今から家で調べてもいいわけで、その知りたいと思うきっかけになってくれたことに感謝したいと思います。
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