三島喜美代(1932-)は、絵画を出発点に現代美術家としての活動を1950年代にスタートさせました。60年代には新聞や雑誌などの印刷物をコラージュした作品やシルクスクリーンを用いた平面作品を制作していましたが、70年代に入ると表現媒体を一転、シルクスクリーンで印刷物を陶に転写して焼成する立体作品「割れる印刷物」を手掛け、大きな注目を集めます。
本展覧会は、70年にわたる三島の創作の軌跡を、主要作品を通して概観するものです。大量消費社会や情報化社会へ厳しい視線を投げかけつつも、情報やゴミを異化作用を通して造形表現へと転化させた三島作品は、日々の暮らしの中から遊び心をもって生み出されてきました。(公式サイトより)
三島喜美代さんのことを知ったのは約3年前。森美術館でやっていた展覧会「アナザーエナジー」でアーティストの一人として取り上げられていて初めて知りました。
今回東京では初となる個展が開催されるということで行ってきました!
絵画から立体、そしてゴミ
1932年、大阪生まれの三島さんは現在91歳。現役アーティストとして活躍中!
そんな三島さんのアーティストとしての歴史を振り返るような構成の展覧会となっていました。
(「マスカット」)
1970年頃から立体の作品を制作し始めた三島さんですが、そこに至る前の作品は平面でした。この絵画は19歳の時の作品だそうです。近年の三島さんの作品とは色合いが違うというか、雰囲気が暗くて意外な気がしました。(19歳の時の作品が展示されるってすごいですね)
(「Untitled」)
ある日、くしゃくしゃに丸められていた新聞を見て、これを陶で作れば面白いのでは?と思ったそうです。このあたりから三島さんの作品は立体になっていきます。この頃の作品はまだそんなに大きくないですね。
(「Work 22-P」)
こちらは2022年の作品とのこと。近年はゴミや環境問題に関心を持っているという三島さんらしい(?)作品のような気がします。
関心があると言っても啓発的な意味はないのが三島さん作品の愉快なところ。ゴミを使ってゴミを作っているとどこかの映像でご本人が語っているのを見ましたが、面白いと思うものを作っているだけなので説教臭さが全くない。とても気楽に作品を観ることができて良いと思います。
(「Work 17-C」)
ゴミ箱に捨てられたたくさんの空き缶…にしか見えませんが陶でできています。見ているだけで面白いです。
ここでまさかのさわれるコーナー出現!さっきの作品の中に入っていたような陶の缶を持つことができました!想像よりかなり重くて脳がバグを起こしました。
(「20世紀の記憶」)
展覧会の目玉作品です。ひとつのフロアがこの作品で埋まって?いました。遠目ではゴミの山に見えるのかもしれないこの作品、敷き詰められたレンガひとつひとつには、三島さんの近年の作品ではお馴染みなシルクスクリーンで新聞記事が転写されています。
近くで見るとこんな感じ。どれも見出しははっきりと読めます。一つずつ見ていけばどれもその時代で起こった大きな出来事…。ですがこうやってみんな同じような形で同じように並べられると…。歴史上の出来事などほんの些細な事柄に過ぎないような気がして寂しいやら切ないやら…という気持ちになりました。
三島さんは91歳。いろんな出来事を見聞きしてきたはずです。この作品を制作する時にどんな気持ちだったのか…。彼女の半分も生きていない私には想像できない何かがあるのかも…しれません。
好きなことをやるということ
会場では三島さんの活動紹介やインタビューのような動画を2本見ることができました。喋っているところを見ると本当に気さくな関西のおばあちゃんといった感じで一気に親しみが沸いてきます。
世間に伝えたいメッセージがあるわけではなく、なんらかの使命感に燃えているわけでもなく、ただ面白いから作品を作るという姿勢、憧れる人がたくさんいるだろうなと思います。
三島さんの深い部分を知っているわけではないので勝手なことは言えないのですが、好きなことをやっている人は輝いて見えますね。富や名声ではなく面白いと思うからそれをやる、やり続けている。なんて羨ましい人生なんだろう。憧れます。
私は、アートというものは大なり小なり何らかのメッセージ性が込められているものだと思っていました。現代アートは特に。しかし三島さんの考え方や姿勢に触れ、ただ面白いというだけで作られたアートがあったって良いんだよな、と思うことができました。
私も好きなことをやり続けたい!いくつになっても面白いと感じることをやり続けたい!!と思いました。三島さんの作品を見ると元気が出てくる気がします。今後の作品も楽しみです。
※追記(2024/6/27)
三島喜美代さんの訃報を知りました。心よりご冥福をお祈りいたします。これからも三島さんの作品がこの世界に残り続けますように。
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