工場などで活躍する産業用ロボットだけでなく、人間と同じように動く人型ロボットや、家族の一員のようにも感じられるパートナーロボット、写真や音声などのデータから生み出されるデジタルクローンまで、いまや「ロボット」の定義や概念、形も多岐にわたります。それはひるがえって、ロボットと人間の関係性が多種多様で複雑になってきたということなのかもしれません。私たち人間とはどのような存在で、どのような思いをロボットに抱き、今後どのような関係を築いていくのでしょうか。
本展では、過去最大規模となる多彩なロボットを紹介しつつ、「人間とはなにか?」を来場者とともに考えます。(公式サイトより)
ロボットがテーマのように見えるかもしれませんが、ロボットを通して「人間とは何か」を問いかけてくる。非常に哲学的な展覧会でした。
ロボットとは…
この展覧会は大きく分けて3つのゾーンで構成されています。初めのゾーンではロボットの歴史を振り返りつつ、ロボットが私たちの社会とどう関わってきたかを解説してくれました。
前からだけでなくどこからでも展示物を見られるようになっている上の写真のような展示方法、良いですね~!私はそこまで強くロボットに興味を持っているわけではありませんが、それでも実物が目の前にあるとテンション上がります。
壁にある解説ではロボット開発の歴史が年表形式でまとめられていて、有名なSF作品や漫画、アニメ、ゲームなども取り上げられていました。ロボットに対して遠い存在のような気が全くしないのは、幼少の頃から様々な場所でロボットに触れてきたからだろうな、と思いました。ロボットを恐怖の対象として描いている作品もありますが、日本でロボットといえば人間と親しい間柄の存在…そんな描かれ方の作品が多いような気がします(調べていません適当に言っています)。例えばドラえもんとか。
からだとは…こころとは…
次のゾーンでは人間とロボットの体や心について。このあたりから何とも言えないゾクゾク感が体中を駆け巡り始めます。
私は大学生の時に哲学を専攻していました。人間とは何か、心とは何か。そこではそんなことを考える機会が頻繁にあったのですが、この展覧会で問われていることもまさにそれでした。
技術の発展により人間は体の機能を拡張させることができるようになってきた。体の一部を機械化することも可能。上の解説パネルにも書かれていますが、そうなった時に「どこまでが自分の体でどこまでがロボットなのか」。人間の定義、ロボットの定義、そのあたりから考えないといけないと思いますが、このへんの問いをがっつり考えようと思ったら人生一度では足りないくらいの時間が必要だと思います。この展覧会はあくまで問いを投げかけるだけで明確な答えは用意されていません。きっかけを作ってくれるだけであとは自分で考えてみてね、という感じの展覧会です。来場者に考えることを促してくるこの施設らしいなと思いました。
右の写真は人間が行けない場所に行くことができるロボットで、災害救助などで活躍するそうです。左の写真は音楽を自由に演奏することができるロボットで、医療等の目的ではなく娯楽目的のロボットなんだとか。娯楽の一環として体の一部を機械化する未来はもうすぐそこまで来ているのかもしれません。実際に機械を体に埋め込んだ人たちのムービーもあり衝撃的でした。
癒しのロボット、弱いロボット
ロボットたちと触れ合えるコーナーも充実!見てくださいこの子たちの愛らしさ。私のことを見ている…撫でてほしそうにしている…!!人間を癒すために生み出されたロボットたちは既にいろんなところで人々を癒しているそうです。右の子(LOVOTといいます)を抱っこさせてもらいましたが、見た目以上にずっしりと重く、抱っこすると温かく、そして抱っこされている時もバタバタと動いてじっとしていない。まるで生き物のようでした。
犬や猫などの生き物と触れ合うセラピーがありますが、ロボットと触れ合って癒されることと生きている生き物と触れ合って癒されること、そこに何らかの違いがあるのか…私にはわかりませんでした。人によってはロボットに触ったって癒されんわ!という人もいると思います。それを考え始めると犬や猫触ったって癒されんわ!という人も多分いると思います。あれ…でも結局個人差という結論を出すのだったらロボットだろうが生き物だろうが同じということになる…かもしれません。混乱してきました。
同じコーナーにこんな子たちもいました。上の写真、決して大きくない声(音)でひそひそ話をするように喋るロボットたちで、言葉遣いも人間の子供が使うようなちょっと幼稚な喋り方をします。下の写真はあえて不完全な存在として作られたロボット、とのことです。ロボットというと人間ができないことをする、人間を助けてくれる、そんなイメージがありましたが、この子たちは不完全なので人間の助けを必要としている。ロボット=優れているもの、というイメージを壊してくる存在でゾクゾクしました。ロボットだって完璧ではない…ということだそうです。人間と同じですね。
いのちとは…
そして最後のゾーン。命について考えてみましょう、というこの展覧会の根っこの部分があらわになっているような空間でした。
取り上げられていたのは「AI美空ひばり」やD.E.A.D. Digital Employment After Death (dead.work)など。倫理的な話になってきましたね。このD.E.A.D.は以前21_21 DESIGN SIGHTでやっていた「ルール展」に行った時も見ました。まさかまた見るとは思っていなかったのでびっくりしました。それだけ人々の心を動かすテーマなんだろうなと思います。死んだあともデータさえあればロボットとして生き返ることができる…。すべての人に平等に訪れるはずの「死」さえ、平等ではなくなる未来が来ているのかもしれません…。
まとめのような何か
面白い展覧会でした~!ボリュームもたっぷりで思ったより体験型展示が多く映像解説もたくさんあり、深すぎるテーマの割には全体的にとっつきやすい気がしました。私は元々こういうテーマが大好きなので当たり前のように楽しめましたが、なんだかよくわからない…となったとしても展示物をひととおり見るだけでなんか良かったな、と感じることができる展覧会だと思います。
それと、これまで私が行ってきたいくつかの展覧会とテーマが似ているなと感じることも多かったので、ここでひっそりとそれらの感想文を貼っておきます。ご興味があればどうぞ↓
未来と芸術展/森美術館/2019.12
ルール展/21_21 DESIGN SIGHT/2021.07
トランスレーションズ展/21_21 DESIGN SIGHT/2020.11
常設展
日本科学未来館に行ったのは約3年ぶりだったので、常設展の展示も色々変わっていました!以前行った時はゴールデンウイークの真っただ中でとても混んでいたので入ることができなかったたくさんの体験展示、今回リベンジすることができました。この施設の常設展は全体的に内容が難しい印象(かなり細かく専門的な内容が多い)ですが、施設名の通り「未来」について来場者に考えてもらいたい、そんな真面目な思いをそこかしこから強く感じます。
きみとロボット展は8/31までということで、がっつり夏休みシーズンと重なっていますね!これから初めて行く人がいたら…常設展もとても面白いのでこっちにも行ってみてほしいなぁと思います。
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