多方面で活躍中のピアニスト角野隼斗さん(Hayato Sumino かてぃん (@880hz))のピアノリサイタルに行ってきました。12/23発売のアルバム(1st.フルアルバム「HAYATOSM」 | 角野隼斗 Hayato Sumino Official Website)の曲を中心としたリサイタルで、場所はサントリーホール。観客のいるリアル公演と無観客配信のストリーミング公演という2公演が行われ、幸運にも私はどちらも聴くことができました。素晴らしい体験の熱が冷めないうちに感想を残しておきたいと思います。
リアル公演
12/13(日)「角野隼斗ピアノ・リサイタル」16時公演セットリスト | 角野隼斗 Hayato Sumino Official Website
リアル公演のチケットは数秒で完売になったことを記憶しています。現地で聴く機会を得られたことを嬉しく思います。人生初サントリーホールでした。すごく大きいわけではないけれどとても美しい音楽を聴くためのホール、舞台の上に堂々と鎮座するグランドピアノも美しいと感じました。
感染対策として観客は離れて座ります。それはホールの半数しか座席が埋まっていないということなのですが、声を出すこともやめてくださいとのことだったので観客に許されるのは拍手のみ。ホールに行くことができた者としてできることは最大の賛辞を贈ること!角野さんがトークで語っていた通り一人で二人分の拍手をしてきました!しかしやらされていたわけではありません。それくらい素晴らしい演奏でした。
ショパンの英雄ポロネーズから始まり聴いたことのある曲からない曲まで(私はあまりクラシックに詳しくありません)、力強く美しいショパンの曲が続きます。角野さんのYouTubeチャンネルで聴いた時からこれは凄いなと思っていた木枯らしのエチュードが聴けて嬉しかったです。音の粒がキラキラしていました。
駆け回る子犬からインスピレーションを受けてショパンが作ったとされる子犬のワルツに続くのは実家にいる大きな猫からインスピレーションを受けて角野さんが作った大猫のワルツ。この曲、本当に「大」猫というかんじがしてすごく良いなと思っています。低い音の部分がそう感じさせるのかもしれません。
そして次に続くのはこちらも角野さん作曲のピアノソナタ 第0番「奏鳴」。3日前にYouTubeで公開された時も聞きましたが、その時より何倍も迫力がありドラマチックで綺麗で力強くて素晴らしかったです。なんだか角野さんが歩んできた人生とこれからの人生を思わせるようなかんじがします。テーマ(主題?)の部分も好きだし、最後のほうは何か大きな役目を終えてさらなる道へ進んでいく英雄が見えるような、そんなところがなんとなく角野さんに重なります。私は今回のリサイタルでこの曲が一番好きでした。
そしてリストの2曲。ショパン以上に詳しくないリスト…ですが、角野さんのアレンジも加わった新鮮なリストの曲は聴いているこちらも初めての曲を聴く時のわくわく感のようなものを感じました。ハンガリー狂詩曲 第2番、凄かった。サントリーホールが角野さんの音に包まれていると一番感じたのはこの曲でした。
アンコール。きらきら星変奏曲はこのリサイタルの総まとめのような感じでエンドロール感?があってすごく良かったです。しかし本当のラストは次のピアノ協奏曲 第2番 第2楽章でした。2年前のコンクール、ここで角野さんが演奏した曲。思い出の~と言うと変かもしれませんが角野さんにとって大切な曲ということですね。(まだ2年なのか…とびっくり)。ここからピアニストとして始まったというような話をされていたと思うのですが、よく考えたらまだ始まったばかりですね。今度のご活躍が本当に楽しみです。
ストリーミング公演
12/13(日)「角野隼斗ピアノ・リサイタル」20時公演セットリスト | 角野隼斗 Hayato Sumino Official Website
正直に書くとストリーミング公演のチケットは買う予定がありませんでした。リアル公演に行く機会を得られたからこっちはパスしても良いかなと思っていて。でも内容がかなり違うみたいだしストリーミング用に組んだというプログラムも聴いてみたいと帰宅しながら思い、家に帰ってから急いでチケットを購入しました。結果、こちらも聴いて良かったです。
リアル公演では中盤の演奏だった奏鳴からスタート。これは本当にストリーミングのためのリサイタルだ!と思いました。リアルではあまり変化のなかった照明や音響?の演出も盛りだくさん。聴かせることはもちろん魅せることも意識しているであろう演出の数々が新鮮でした。さらに、ガーシュインスペシャル(?)など、こちらもリアルではなかったノリの良いポップな感じの演奏を聴くことができました。
しっかりフルで人の演奏を聴いたのは初めてな気がするリストのラ・カンパネラ、この時点で圧巻の演奏でしたがそのあとがさらに凄かった。リアルでも最後の曲として演奏されていたハンガリー狂詩曲ですが、これに感してはストリーミングの方がパワーを感じた気がします。何か憑いているのか、魂が半分くらい別世界に行っているのか、そう思いました。演奏後のトークでは記憶がないと、ツイートでは狂っていたと思うと、そう語っていましたが、きっとご本人にしかわからない境地に達していたのではないかと思います。
ストリーミングの最後はリアルで最初に演奏された英雄ポロネーズでした。同じ曲ですが聞こえ方が違う気がして不思議な気持ちになりました。
感想
2020年は角野さんに限らず、様々なコンサートやライブができない事態に陥る年でした。そんな年の終わりに満を持してのリサイタル。観客も一人ひとり色々な思いを持って臨んだリサイタルだったと思いますが、角野さんご本人の思いはどれほどだったかと考えると気持ちが引き締まるような感覚になります。
ストリーミングの最後のトーク、真面目な話は苦手と言いながらも自分の気持ちを語ろうとする角野さんの姿を見て、公演中は大丈夫だったのにここで涙が出てきて驚きました。自分の気持ちを語ろうとしてくれる角野さんだからこそ、応援しようと思えるんだよなぁと改めて感じました。
人と違うこと(彼の場合はクラシックをただ弾くだけでなく自分なりの解釈でアレンジ等をしていることでしょうか)をするのは怖いことだけど、自分がしたいと思うことをするのが大事だと思うと話していました。普段の動画や配信などを見ているとサラッと難しそうな曲を弾きながら軽やかに即興アレンジも入れる。そんな人なので気付かないというか、忘れてしまいそうになるのですが、たくさん考えて迷いながら進んでいるんだよな…角野さんも…と思いました。
この人は新しい道を切り開いていく人なのだろうと割と前から感じていました。しかしそれはそう簡単なことではない。最初の人になるというのは大変なことです。このリサイタルには「ショパンとリストに憧れた21世紀の愚かな若者の挑戦」という副題のようなものが付いています。角野さんが怖さを感じながらも模索して切り開く道は、きっとあとから人が付いてくるようになる道なのだと思います。
自分は何者でもないという話をされていたのも印象に残っていますが、それはそうでしょう。角野さんのピアニスト人生は始まったばかり。彼が何者かになる時が待ち遠しいですね。
素晴らしいリサイタルをありがとうございました。
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