前置き
冒頭がクライマックスとは言わせない!絶対にだ。という強い気持ちを持ってこの映画の感想を書いていく所存です。名作溢れるピクサー映画の中でも私の中ではかなり上位に入ってくる最高の映画だと思っています。もう何度も見ていますが、今回改めてブログ記事にしてみようと思いレンタルしてきました。もう一度がっつり見た上でこれを書いています。
まず、この映画を見た人がよく言うセリフに「冒頭が素晴らしい」「最初の10分で大号泣」等があります。確かに素晴らしい。言葉にならないくらい素晴らしいです。この映画のメインテーマとなる曲がバックで流れていてそこに主人公カールじいさんと妻のエリーが歩んできた人生がセリフなしで流れるのですが、こんなに心揺さぶる見せ方があるかよというくらい本当に素晴らしいです。2人がどんな出会い方をしてどんな道を共に進んできたか、ほんの数分しかない映像でここまで表現できることの凄さ…恐れ入ります。掴みとして完璧、それでいてこの後の展開で重要なキーポイントとして出てくる大切なアイテムも既にここで見せています。「わたしの冒険ブック」がそれです。そして、カールがどれほどエリーを愛していたかということもここでわかります。これもこの後の展開において超重要なポイントです。最初の数分に色々詰めすぎではないかと感じますが実際見てみるとなんの違和感もなく心に入り込んでくるところが本当に凄いと思います。
さて、物語はここからですよ。この映画、冒頭だけの映画じゃないですよ!
本編の感想
最愛の妻を失い空虚な日々を過ごしていることがわかるカールの描写から始まります。心なしか表情も固く周りからみればただの頑固じじいという存在になっていることがよくわかります。そして、ここでわかることがもうひとつ、エリーへの変わらぬ愛がまだカールにはあるということ。これも重要ポイントですね…。
ここで突然やってくるラッセルという異物。この異物(酷い言い方すみません)が自分の大切な場所から動こうとしない頑固じじいとなったカールを物語ごと動かしていくことになるのですが、このあたりのキャラ設定も上手いですよね~本当凄いこの映画。風船の鮮やかな色彩も凄い。なんて夢があるんだ…フィクションはこれくらいやってくれて良いと私は思います。
さて、亡き妻との夢を実現させるため、カールは大切な自分(とエリー)の家にたくさんの風船をつけて飛び立ちます。目的は2人の夢であったパラダイスの滝に行くこと。しかしここで例の異物(すみません)が入り込んできます。このラッセルという少年、子供ならではの不躾で遠慮がない言動が絶妙にうざいのですが(笑)、何度も言いますが彼の向こう見ずな言動がこの物語と、そしてカールを動かしていくわけです。
どんどん冒険っぽくなってくるカールとラッセルの旅。危機を乗り越え目的地であるパラダイスの滝が見えるところまでやってきます。物語が始まってまだそんなに経っていないのに早いですね(フラグ)。引っ張らないと家を動かせない状況になってしまいましたが、まだカールじいさん頑張っています。
そして次々登場する動物の新キャラたち。可愛いです。犬好きと鳥好き必見。じいさん、子供、鳥、犬という愉快な仲間たち状態になったところで、ラッセルが親とあまりうまくいっていない気配をカールが感じ取るシーンが入ります。ますます目的とは違う方向へ進んで行ってしまうカールの旅路…。
カール(とエリー)の憧れの人物であったマンツとの予期せぬ出会いにより、はじめは嬉しそうにしていたカールですが、このマンツという人物…敵ポジションのキャラです。マンツとカール、冒険好きであり過去にとらわれているという共通点があります。この2人がどうなるかは見ての通りなのですが、過去から前に進めなかった人間と一歩踏み出すことのできた人間の対比がまた素晴らしいのです…。
このあたりからカールは(鳥を守る、ラッセルの言うことを聞いてあげるという)自分の目的以外のことで動き始めます。エリーとの思い出の家と共にパラダイスの滝へ行くことが全てだったカールに変化が見られます。よく見ると表情も豊かになり歩き方も若返ったような感じになってきていることがわかります。家具を手放したあたり(後述しています)からはますます生き生きとした動きを見せるカール。守りたいものを自覚した主人公というのはどんな映画でも強いものです。入れ歯で攻撃する主人公強い。最終的に家さえも失い一段落ついたあとのカールのセリフ「いいさ、ただの家だ」は彼の精神的な成長と新たな道への一歩が開かれた瞬間だと思います。
そしてラストのエリーバッジのシーン。このバッジがカールにとってどれほどのものか、それをラッセルに託すことの意味、この深み…味わい…素晴らしい。さらにたたみかけてくるのは本当のラストシーン。あの家が行き着いた場所があの場所とは…涙なしに見られません…なんという感動的なハッピーエンド…。結果的に目的を果たしたと言えるのかもしれませんね。
エンドロールを見ると、その後のカールたちが楽しそうに暮らしている様子がわかります。映画が始まった時の頑固じじいの姿はもうありません。エリーも喜んでいることと思います。
この映画、原題は「UP」です。邦題と比べて非常にシンプルなタイトルですが、見たあとでこのタイトルを知るとその意味の深さに震えます。UPとは…きっと複数の意味を含んでいるはずです。
さあ、まだ語り足りないので続きます。
【音楽について】
メインテーマとなる音楽があります。素晴らしい冒頭から姿形を変えながらずっと使われるフレーズ、いろんな名曲がある映画も素敵ですが、この映画のように同じフレーズが違う形で何度も使われるというパターンも良いなぁと思います。綺麗な思い出を振り返る時に流れるフレーズ、危機的状況に立ち向かわなければならなくなった時に流れるフレーズ、同じなんですよ。最初から最後まで流れるこの音楽に注目してみるのも面白いかもしれません。
【思い出という重荷と風船】
カラフルな風船をたくさんつけて最愛の妻との思い出つまった家と一緒に旅立ったカール。冒険の途中で予定外の出来事に何度もぶつかり、その度にカラフルな風船の数は少しずつ少なくなっていきます。それはやむを得ないことだったりカール自らの選択によるものだったりするのですが、この風船が少なくなっていくことで家は軽くなり前に進めるようになるんですよね…。もうこの描写があまりにも素晴らしくて涙を禁じ得ないわけです…。風船だけじゃないです。エリーと過ごした思い出の家と家具もそう。
とても印象的なシーンがありました。逃げるカールたちを追ってきたマンツがカールの家に火をつけるシーン。見ている私たちは彼がどれほどこの家を大切にしているか冒頭の素晴らしいムービーにより知っているので、ああああああ!となります。しかし秀逸な描写により私たちは見ていてわかるのです…この家が重荷となって前に進むことが困難になってきているということに。カールがイスに座って改めて見返すエリーの「わたしの冒険ブック」とエリーのメッセージ…。きっとカールはここでエリーの思いを受け取ったのでしょう、縛られていたものから解放されたかのように家具を外へ放り出し始めます。軽くなった家は再び空を飛びます。残された2つのイスが仲良く並んでいる画がまたとても良くて…(余談ですがこのあたりで私は号泣)
捨てなければ進めないもの…それは美しい思い出なのかもしれません。思い出は綺麗であればあるほど留めておきたがるのが人間かもしれませんが、それは物として置いておく必要はないのかもしれません。たとえ物はなくなったとしてもカールがエリーとの思い出まで捨てたとは誰も思わないでしょう。思い出は心の中にあるとわかっているからです。なんて良い映画なんだ…(泣いてる)
【この映画のメッセージ】
映画のキャッチフレーズにもなっていたように思いますが、いくつになっても冒険に出たって良いし、いくつになっても人生を楽しんで良い、新しいスタートはいつ切ったって良い、そんな温かくて優しいメッセージに心がほんわかします。また、大切なものは過去でもなく未来でもなく「今」なんだというメッセージも感じました。私たちは過去を生きることはできません。心は過去にあっても今を生きるしかないのが人間です。カールじいさんが過去ではなく今を見つめ始めた時、私はこの映画に勇気をもらったような気がしました。なんてことない日々かもしれないけど、また明日からも頑張ろうと、そんな思いになったのです。なかなかこのような感覚にさせてくれる映画はありません。本当に好きです。ありがとうカールじいさん。
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